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僕はその姿を見ながら今まで何度もお世話になった救急車のことを思う。
「ちなみに聞いておくけど、これにはどういう効果があるの?」
「究極のダイエット効果。もう、いつまでもグズグズ言ってないで早くそこに立って。いい、ピンって鳴ったら機械が動き出すからね」
母はスタートボタンを押した。
―ガチャ ピン
機械が動き出す。
しかも凄いスピードだ。
僕は走ることで精一杯だ。
「アキラ、ラジオ体操よ!」
母の声援がとぶ。
無理だって。
僕はがむしゃらに手を動かした。
コルセットが軋んで嫌な音を立てる。
そして―――頭の上で持っていた皿の中身がこぼれた。
痛い。
なんだか刺すような痛みが頭の上から顔にかけて伝わってくる。
「アキラ、それは飲まないと。でも、まあいいわ。よくやったわアキラ」
母の手にコードレス電話が握られている。
これ…飲んだら死んでたよ。
僕は焼けるような痛みを感じながら、止まらない機械の上を必死に走った。
痛みで身体がこわばる。
一瞬弱まったスピードで僕の足はローラーに巻き込まれた。
「アキラ、危ない!」
言葉とは裏腹に嬉しそうな母の顔が僕の目の端に映った。
そして、僕は後頭部に強い衝撃を受けて視界を失った。
遠くで母の声が聞こえる。
「これでまた中嶋先生に逢える」
僕は遠のく意識の中でその言葉だけをはっきりと聞いた。
もしかして母は美容マニアじゃなくて………
確信してしまうのが恐ろしくて僕は完全に意識を手放した。
遠くで救急車のサイレンが鳴っている。
終
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