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僕は下町に住む16歳の少年だ。
いや、少年と言うより少女と言った方が、僕を見た人は納得するだろう。
そう、僕はまるで少女のような面立ちに、華奢な身体を持つ少年だった。
今日も女と間違えられ、僕は憂鬱な気分で家に向かう。
僕は近くなってきたマンションの一室を見た。
電気が点いている。
母が……いるだろう。
家へ帰る足どりは、非常に重い。
僕は覚悟を決めてドアを開いた。
咽せるような薬草の臭いに鼻を摘む。
「ただいま」
僕はリビングキッチンに入った。
「お帰りなさい」
全身をラップでくるんだ母が顔だけ振り向いてにやりと笑った。
パックをした白い顔に皺が入る。
「アキラ、早く着替えてらっしゃい。ご飯にしましょ」
僕は母が混ぜ続けている鍋を気にしながら神妙に頷いた。
母は美容マニアだ。
良いと言われたものは一通り試してみないと気が済まない。
しかも母は自分だけでなく僕にも試させる。
男でも同じ効果が得られるか、気になるらしい。
僕は足にラップを巻きつけながら考えた。
最近の母はマニアの域を越えている。
どちらかというと…実験的だ。
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