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そこで抱いた感情に疑問を持った僕は、もう一度顔や格好を確認する。
まず目に写ったのは髪型だ。
少し長めの前髪をクローバーのデザインのゴムで縛り、上げていて後ろは途中まで刈り上げてある。
こんな特徴的な髪型をしている人なら、流石に一度見たら忘れないだろう。
体は、脂肪は付いていなく細身で、手足が長いためとても細長くみえた。
顔は整っていて、黒い縁の眼鏡と合わさり知的なオーラを出していた。
先ほど、僕は髪型について特徴的で忘れないといったが、顔もまた美形の部類に入るので一度会ったら忘れないだろう。
やはり、この人は知らない人のようだ。
ではいったい、さっきの心の奥深くから湧き出てきた感情はなんだったのだろうか。
「おのの、いもこなのか?」
ただ黙って相手の顔をじっと見ている僕を不審に思ったのか、その人は口を開いた。
おのの、いもこ?・・・ あぁ、小野妹子の事かな。
確かに小野妹子と僕、小野妹彦という名前は似ているし、勘違いしているのだろう。
「違いますよ。僕の名前は小野妹彦です。」
僕がそう言うとその人は顔を歪めた。
僕は質問の意味を間違えたかと焦ったが、またすぐにその人は笑顔に戻ったので安心した。
「そうか、それは悪かったな。私の名前は厩戸王子だ、よろしくな妹彦。」
「よろしくお願いします、厩戸先輩。・・・しかし、僕の事は妹子でいいですよ。」
先程のいもこではないと言う僕の答えに歪めた顔を思いだして、僕はつい、訳の分からないことを言い出していた。
厩戸先輩は驚いた顔をして、こちらの顔を窺っていた。
僕が少し慌てていることに気づくと厩戸先輩は、
「じゃあ、私の事は太子と呼んでくれないか?」
と頼んできた。
その時の照れたようなはにかんだような笑顔は、僕のハートに火を付けるのには十分すぎた。
そして僕は気づいた。
そうか、先程からの感情は一目惚れってやつだったんだな。
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