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私は昔雨だった。
罪を犯した私は雨となり、天寿国から落とされた。
けれど私は認めなかった。
それは私の罪ではない。
そう言い続け、そして、いつしか人となり。
気がついてみると人となり。
こうしてここまで生きていた。
私はまだ、召されぬか。
死してまた、この地に縛られるか。
斎場の煙が昇っていく。
私は立ち止まった。
けれど、雨がまとわる彼は、きっと天には届かないだろう。
どんなに、手を伸ばしても、彼の魂は天に昇ることはない。
多くの雨人(ザイニン)が、彼の行く手を阻む。
彼の臭いを感じ取り、その手を、その足を引っ張る。
そして彼はまた土の中だ。
私は知っている。
あの冷たい場所を。
彼にはきっと許されない。
天上界の門はそんなに優しくはない。
雨は罪人を導く為。
曇りは罪人を惑わす為。
晴れた日でさえ、光は罪人を誘う。
彼は罪深き人だった。
私は彼の子供として生まれて来たけれど、それでも冷静に判断できるほど。
それほど、彼は酷い人間だった。
隣で娘がぽつりと言った。
「空が泣いてるみたいね」
彼女は私の良心だ。
雨はそれでも降り続ける。
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