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―闇に堕ちていく―
流れに乗るように、押し寄せる黒い波に身体を預けて…、決して流れに背かず静かに下へと堕ちていく。
感情も身体と比例して黒い波に流れる。
しかし不思議と恐怖心はなく、それどころか、さながら赤子に戻って揺り篭に揺すぶられるような闇の堕ち方に安心感さえ覚えた。
―鬼道さんは…―
あの人は今、雷門で笑っているのだろうか。
それならいいな、と思い少し微笑むと、目の隅に球体となった水が映った。
一瞬不思議に思ったが、はっと目の縁を触ると微かに濡れていて、水は己の涙で、今自分は闇に向かって堕ちている事を思い出した。
だから、俺の身体より軽いその球体はゆっくり堕ちる為に、自分の目には上に昇って行った様に見えるという錯覚が起こった訳か。
時間差があるとは故、あの人を思って流す涙でさえ闇に堕ちていくという運命を変えることは出来ないと理解した途端、言いようのない感情に押し潰されそうになった。
―こんなにも、貴方を思っているのに…、―
―貴方の為に流す涙ですら、いけない事なのでしょうか…?―
闇 に 堕 ち る 数 秒 間 。
翌日、俺と源田の病室に不動という男が訪れた。
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