第一章「胎動」

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「さあ、急ぎましょう。長野行きのこの電車に。」 「ああ、わかってるよ」 夕方、定時のサラリーマンで溢れるホームの喧騒の中、二人の男が颯爽と同じ長野行きの電車に乗ろうとしている 「あ、なにやってんすか!急がないと遅れちゃいますよ花月さん!」 花月と呼ばれたこの一見地味な男ともう一人、どうやら颯爽と同じ電車に乗るようだ。 「影岡、ちょっと待ってくれ…」 もう一人の名は影岡か ん?花月?まさか… 「なあにやってんすか!乗り遅れますよ!」 「あ、おばちゃん、この駅弁頂戴な。」 影岡を無視し、売店のおばちゃんに駅弁を頼む花月 「あの、人の話聞いてんすか?」 「ちょ、おばちゃん、箸くらいいいでしょ。」 依然として影岡を無視し、箸をせびる花月 しかしおばちゃんも譲らない 「なに寝ぼけた事いってんだい!MY箸はトレンドなんじゃないの!今時の若いモンは流行に鈍感だねぇ!」 そのおばちゃんからは想像もつかないコメントが返ってくる 「忙しくてそんな事知らないんだよぅ」 子供のような言葉でおばちゃんに迫る。 目が輝いて見えるのは…幻だろうなきっと。 しかし、思った以上の効果があったらしく。 「仕方ないね!持ってきな!」 あっさり渡した… 「わあ、おばちゃんありがとう!」 プルルルルル! 長野行きの電車が来る…が、気にせず続ける花月 「………」 泣きそうな目で花月を睨む影岡… 「さあ、行こうか。」 駅弁を手に取り、背広を整え、電車の方に向き直る…が、 プシュー…がちゃん 「ふざけんなよ。」 「…いやぁゴメンゴメン。」 反省してないように見えるのは俺だけだろうか? 「あんた総理大臣なんでしょーが!どうすんですか!?あと一時間はありませんよ!?」 総理大臣と呼ばれた男、花月はバツの悪そうに謝る 「いやぁ、ゴメンゴメン…」 というやり取りを見ている男…颯爽は疑いを確信に変えた 「ああ、やっぱりな。」 周りの人間は気づいてないようだが、雰囲気からして総理大臣の花月だろう。今影岡が総理大臣とか言ってたし さ、あと一時間ちょいか…自分の興味本意で電車を一本損した颯爽は 「あ、駅弁一つ…え?箸は?…エコ?トレンド?あ、いや知らないです割り箸ください…だから割り箸…いやだから割り箸!」 おばちゃんとの闘いに四苦八苦するのだった…
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