夢の時間へ

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人は気分が良いと鼻唄を歌うらしい。 邦楽、J-POPなど今時の曲を連想するだろうが、彼女の場合、これから向かう場所に似合ったクラシックを歌っている。厳かな印象を持つクラシックを鼻唄にするとは……彼女にとっては身近な存在である証拠なのかもしれない。 「バス酔いするぞ。」 隣で嬉しそうに雑誌を見る彼女を見ながら菊地頼人(キクチ ライト)はため息を吐いた。しかし話を聞くつもりは無さそうでまた歌い始める。頼人はさらに皮肉を込めて言う。 「その本読むの何回目だよ……」 「別にいいじゃない。何回読んでも飽きないもん。」 彼女……頼人の連れであり同級生であり、只今わけあって同居中の高橋胡桃(タカハシ クルミ)はくるりと彼の方を向いて話してから再び雑誌に目を移す。 『フィギュアスケートオリンピック最強六戦士』 と大きく題されていた。 同じ読む毎に胡桃の口から感嘆の声が漏れる。 「本当に好きだな。」 「オリンピックも凄かったし、これからその人達が使っていたスケート場に行けるんだよ。今日はいい日になりそうな予感っ」 「俺は休日が減って最悪だ。」 「もう本当にインドアなんだから……」
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