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翔びたいな
そう言ったのはいつだっただろう。
ずいぶんと親しくなってからだっただろうか。
廃ビルの屋上で、広すぎる空を眺めていた時、ふと溢した言葉。
そう、思わない?
にっこりと笑った彼女は眩しかった。
星よりも月よりも太陽よりも。
人工の明かりよりも。
その輝きに目を細めていると、彼女は空に視線を戻して言った。
ここから見上げてるだけだと、空に堕ちちゃいそうなんだもの
彼女の言葉に空を仰ぐと、なるほど、確かにそうかも、と思う。
あの時彼女は、どんな気持ちであの言葉を言ったのだろう。
俺にはわからない。
もう、訊くことも叶わない。
トンビを眺めていたら、空に堕ちそうな気がして。
少し眉をひそめて首を振ると、また歩みを進めた。
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