絶対に読んではいけない小説(Ver.Another)

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 今日の昼、俺は珍しく会社の外で食べることにした。何故か少し外を歩きたかったからだ。理由は分からないが、俺は気分が向くまま外に出た。  何が食べたいとか、特にそんなことは考えてない。当てもなくただ歩いている。まるで何かに引き寄せらるように、迷いもなく道を選んでいく。  すると、交差点の隅に花束が置かれているのが目に入った。花束のある付近のガードレールはクシャクシャに歪んでいて、多少のガラス片がキラキラと光っている。  交通事故の現場なのだろう。一目見てそう思った。  見ず知らずの誰かがこの場所で亡くなった。この花束が示すことは、きっとそういうことだ。  気がついたら俺はその場所で黙祷をしていた。名前も、顔も知らない誰か。でも、何故か俺はこうしないと気が済まなかった。たまたまここに辿り着いただけなのに。 「あら、清人さんの知り合い?」  背後から声がして振り返る。そこには、俺より少し年上の女性が立っていた。 「いいえ、全く知らない人です。清人さんって、その……」  俺は言葉に困ってしまい、チラッと後ろの花束を見た。 「えっと、ごめんなさい。ここでジッと立っていたものだからてっきり……。そうです。清人さんは一ヶ月ほど前にここで亡くなりました」 「そう……なんですね。ご冥福をお祈りします」 「気を遣ってもらわなくてもいいのよ。私はもう、ちゃんと前を向いていますから」  そう言って女性は俺から花束へと視線を落とす。つられて俺も改めてその事故現場へと目をやった。  道路には、おそらく凄惨な事故だったのだろう、薄らとシミが浮かび上がっている。しっかり掃除してあるけれども、そのシミが人間の血の跡だということは容易に想像が出来た。  自然とそのシミの近くまで行き、腰を落とした。この場所で、清人さんという人間は亡くなった。そう考えると、全く知らないはずの人なのに胸が締め付けられる。
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