鞍馬山天狗、高尾山天狗の元に参る事。

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 高尾山の参道に聳えるたこ杉という杉の巨木の上に、天狗の邸があることを人間達は知らない。  杉の幹から生え八方を支えるように広がる柱、そこに分厚い樫板が渡されて土台を作っている。  上に聳えるのは朱色の鮮やかな三重塔。先細りする木の上に 立派な塔が建っているのは人知を越えた不可思議な光景である。  私は羽を一打ち二打ちして飛ぶ勢いを殺し、音も立てずに樫板の上に降りた。  寝入った子鼠すら起こさぬような着地が出来なければ、大天狗様の弟子としては三流である。  客分として参った先で無様な業を晒せば後々の笑い種であるし、主の品格も疑われる、それだけは避けねばならない。  篠懸(しのげさ)の乱れを直し、顔を伏せ、大音声を放つ。 「案内(あない)申す!案内申す!」 「承(う)け給う!承け給う!」  間を置かず応答があった。恐らくは私が御山の空域に入った時点で気づいていたのだろう。流石は関東に名だたる大天狗の屋敷、警戒も厳重だ。 「これなるは飯綱大権現様が一番弟子、薬王院彦三郎様の邸!そこに座するは何処の御山の天狗にて候や!」 「突然の来訪ご無礼仕る!拙僧、京は鞍馬の山に居わす、僧正坊様が八番弟子、鞍馬山八郎坊にて候!」 「本日、当道場に来山の義は如何に!?」 「僧正坊様の命により、御山にて行を修むるべく推参仕り候!」 塔の天辺に立っていた二人の木葉天狗が舞い降りてきた。天狗評定(天狗会議)後の顔見せを兼ねた宴の際、小間使いをしていた顔見知りだ。 「おお、これはこれは鞍馬の八郎坊様。もうそんな季節になりましたか。」 「お久しゅうございます八郎坊様。ささ、どうぞ中へ。」
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