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東西を問わず、大天狗様の居わす邸とその周辺は禁足地と呼ばれ、人間には立ち入る事はおろか見ることすらできない。
本来であれば禁足地は人の立ち居いらぬ深山幽谷に構えられるものである。
だが「飯綱大権現」様に代わって霊山高尾山を任された「薬王院彦三郎」様は敢えて人の世に近い森に禁足地をお造りになられた。
それはひとえに彦三郎様の特殊な立場故であるが、それについては後述する。
門が開くと「迷宮の如き」と比喩される塔の内部が顕わになった。
まず驚くのは玄関口から地平線の果てまで延々と続く廊下である。両脇に延々と障子戸が続いているが、どれもこれも障子紙の質感から木目まで全く同じ。
天狗の邸は外観からは想像も出来ぬような広大な空間を内に湛えているものだがそれでもここは度が過ぎている。
それを成す彦三郎様の法力たるや如何ほどのものか。
延々真っすぐ、五分ほど歩いた後案内の木葉天狗が天井を
叩くと、板が開き段梯子が降りてきた。
「どうぞ、足元にお気をつけください。」
上りきった瞬間、私はまた度肝を抜かれた。屋敷の中にいたはずなのに、段梯子を登った先が落ち葉積もる、夕暮れの森であったからだ。
見渡せば、幹の半ばに支えを立てた藁葺き屋根の小屋が幾つも並んでいる。
「お見苦しゅう御座いましょう、ここが我々のねぐらで御座います。」
その小屋の内一つの戸を開けると、今度は玄関の三和土に繋がっていた。私の上司である僧正坊様はここまで入り組んだ邸は創っていない。
京天狗はどちらかといえば外観に命をかける傾向があり、内部は至ってシンプルだ。
案内役の木葉天狗に履物を預かってもらう。待つまでもなく、新たな案内役がやって来た。
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