鞍馬山天狗、高尾山天狗の元に参る事。

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「お、来たね、鞍馬の八郎坊君。まぁ上がりたまえ。彦三郎様がお待ちかねだよ。」  この丸眼鏡の烏天狗は彦三郎様の二番弟子、広済坊様である。人間の身から天狗に成った下っ端中の下っ端、所謂溝越天狗から二番弟子まで上り詰めた努力と才能の天狗である。  苦労の連続だったせいか下の面倒見がよく、諸山でも評判が良い。  広済坊様に案内を代わってもらい、導かれるまま延々続く階段を上る。  一応気構えはしておいたお陰か、今度の光景には驚くことはなかった。上ってすぐ目の前に障子戸があり、その真上に飛翔する彦三郎様と思しき大天狗 の絵図が掲げられている。どこからどうみても此処が彦三郎様の御部屋である。  私と彦三郎様は面識がある。面識があるといっても畏れ多くて床に額を擦り付けたままだったのでご尊顔を拝したわけではない。  この度の訪問も天狗評定で話し合われた事であるからご存知のことだろう。それでも尚、他山の大天狗様と会うのは緊張する。  何せ相手はその気になれば片手で人間の街一つ消し去ることも出来る大魔縁である。下手なことを言って機嫌を損ねでもすれば即刻大問題に発展しかねない。  と、不意に彦三郎様の絵図が身を翻してこちらをぎょろりと睨み付けた。 一気に肝が冷える、というか冷え切る。
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