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嗚咽で震えた喉に本音を訊いてみるが、声も震えていて、何に泣いているのか分からなかった。厚意で差し出された手をいつも丁寧に断っていた。「大丈夫ですか。一緒に行きましょうか」「大丈夫です、ありがとうございます」断った後に残る虚無感に巻き付けた鎖が鈍い音を立てた。
誤魔化すように雀が鳴くみたいに小さく歌っていた。それでも、鈍い音に耐えられなくなって気付いた、君に触れてたいと思う自分に。そんな俺は何だ、と考えて今さら思い知らされた。ずっと、大切なことを歌い忘れていた。
人と居ることが恰好悪いと、一人になって孤独を望んだふりをした。だから、手の温もりはちゃんと知っていた。それでも、その手に触れてしまって、あたたかさに慣れた頃に失ってしまうのがこわかった。
今さら、人に触れていたいと歌って良いのだろうか。自分で選んだ寂しさの向こうで些細な事物で奪い合い、騙し合い、果ては殺し合う。そんな様を見て、触れてみれば、色々なものがこわくなって、それで離れたりした。だけど、それでも。
こわいくせに、ヒトに触れていたいと、そう願う人間が好きだ。恥じなんてそっちのけで、嗚咽を垂れ流して何度となくすがりついて傷ついた。
君に触れていたいと思った。その声で名前を呼んで欲しい。呼んでくれよと。小さなわがままを歌った。
もし、一人で居たならこんな歌を歌う俺に生きる意味は
ひとつもない
End
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