第8章 別れと旅立ち

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その問いに一瞬 身構えた勘助は 低い声で 『如何にも。 某が山本勘助晴幸に御座る、 いやはや、高名な長野殿に 某の名など見知って戴いておるとは、光栄で御座る』 緊張感ある中 低くよく通る声で 勘助は応える そして警戒心からか 今だ辺りに視線を流している 『やはりそうか、 おい、心配せずとも 儂は戦をしに来た訳ではないぞ 仕掛けるならば もうとっくにやっておる。』 警戒する勘助に 業正が緊張を紐解こうと促す (確かに、策謀から言えば 油断を突くが常道だが 警護をした上で 儂等に小競り合いを 仕掛けても長野側には 何の利もないわな) 勘助は心中でそう考えをまとめた 『我、客人 真田弾正殿を お送り戴きありがとう御座いまする あなたの様な器広き 武士がまだおられる事を知り 感服致した、』 そう告げると深々と頭を下げた 『業正殿、誠に世話になりました 貴殿より受けた恩は 生涯わすれもうさん、』 幸隆も歩みより頭を下げる 同時に深々と 頭を下げられた業正は すこし困惑した様子で 『やめい、儂はそないに 頭を下げられる事はしておらん むしろ当たり前の事を したまでの事だ、 頭をあげい』 『誠に世話になりもうした』 幸隆は尚も礼を続けた 『よい、だが 我等の元を発つんじゃ 是が非でもその志を遂げよ!』 そう告げると 馬の蹄を返し 『皆、帰るぞ! 弾正、達者でな、』 『また会おう、幸隆』 信綱がそれに続き 言葉を掛け 業正の集団は 上野国への帰路についた 幸隆は涙を堪え 集団が帰っていく姿を眺めていた その姿を見た勘助は しばらくソッとして置こうと 離れていった そして幸隆は新たな決心を固めた (やらねばならん、 必ず俺の武名を響かせてやる 旧領も取り戻す! 業正殿、またいつか会いましょう) こうして幸隆は 長年 身を寄せていた 上野国から甲斐へと入国し 新たな一歩を踏み出そうとしていた
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