1161人が本棚に入れています
本棚に追加
/266ページ
 ̄
町は、シトシトと雨が降っていた。
雨音は、お気に入りのオレンジ色の傘を差し、家を出た。
今日はサークルの集まりなのだが、生憎の雨で行くのがダルく感じる。
お気に入りのスニーカーで歩く度に、雨はパシャパシャと跳ねる。
土のようなよくわからない、雨の匂いが雨音の鼻をくすぐった。
歩きで来るんじゃなかった。
小さな後悔が、雨音の足取りを重くした。
その時、雨音の携帯がなった。
「はい?。」
「雨音?あたしあたし!」
耳がキーンとなりそうな位の、ハイテンションな声が響く。
今度はあたしあたし詐欺が、流行ってるのですか?。
犯人はわかっているが、一応問いかける。
「だれですか?」
「ガビーン。愛する友人の名前も忘れちゃったわけ?」
ガビーンって普通口で言うか?。
ガビーンって。
「ごめんごめん。どうしたの?絢子。」
「雨音が遅いから電話かけてあげたの!!。」
偉いでしょ?
と絢子は付け足した。
絢子とはこの春、大学で知り合った。
ちなみにサークルも一緒で、その高いテンションはサークル内を明るくする。
「暇だねぇ。」
「えぇ。ひどいよう。」
電話の向こうからは、泣き真似と、ブーブーと抗議の声が聞こえてくる。
「で、本当の用件はなんなのさ。」
いまだになにか言ってるが、気にしないでおく。
いつものことだ。
「暇だったから。」
文字に表したら、ハートマークがついてくるだろう声が、雨音をイラつかせる。
いつものことだ
「電話切きるよ?」
可愛く語尾に、星なんかつけてみたりする。
イメージ内ではだが。
言葉とは裏腹に、携帯を握る手に力が入る。
「いやぁん。怒らないで雨音様。絢子は怒られるのキ・ラ・イ。」
うふっと、電話の向こうでは可愛らしく笑う声が聞こえた。
携帯がミシリと音を立てた。
最初のコメントを投稿しよう!