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斎藤の腹の中で、ぐるぐると黒いものが駆け巡る。
気付けば呟いていた。
「どこが良いんですか?」
「一君‥‥。」
「どこが良いんですかっ!?俺はこいつのよさがわかりません!!」
言葉なんて、一度口にしてしまえば。
「飯炊きも、洗濯もどこかぎこちなく、家事ははっきりいって下手くそ。掃除すらまともに出来ない。かといって、そこらの娘のように、化粧気もなく、自分を美しく着飾ることもない。自分が飾ることなしに、美しく見られるとよほど自信があるようだ。」
止まることを知らない。
斎藤の唇から溢れてくる言葉たちは、言えば言うほど。
言葉にすればするほど。
藤堂の顔を曇らせていくのに。
「自分のことも記憶がないといって、己のことすら満足に分からない。」
わかっていたのに。
「そのくせ、私たちのことは私たちの以上に知っている。こんな得たいの知れないやつの気持ち悪いやつのどこがいいのかわー‥。」
ぱんっ!!
と、乾いた音が台所に響き渡った。
なにが起きたかなんて、熱をじわじわと帯び始める頬ですぐわかった。
斎藤は叩かれた頬に手をあてた。
俯いている藤堂の表情はわからない。
「一君の馬鹿。」
藤堂はぽつりと呟く。
「あほ!どじ!まぬけ!このっおたんこなす!!」
顔をあげた藤堂は、大きな瞳に涙をゆらゆらと浮かべながら
「一君なんか!!」
震える唇ではっきりと叫んだ。
「一君なんか大っ嫌いだ!!!」
台所から走り去っていく藤堂。
崩れ落ちる斎藤。
台所で戦闘不能が二名になった瞬間である。
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