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携帯を折りたたみ、濡れないようバックに入れた。
降りやまない雨が、ズボンの裾を濡らす。
雨音はそれを鬱陶しそうに、眉をしかめた。
するとここで、初めて自分がイライラしていることに気付いた。
何故だろうか。
考えてもわからない。
ついさっきだって、絢子と普通に会話していたのに。
嫌なことを言われた訳じゃない。
なのに何故、今日はこんなにイライラするのだろうか‥‥―。
雨のせい。
雨のせいだ。
苛立つ気持ちを抑え、雨音は歩く速度を速めた。
雨が降る日は良いことがない。
人とぶつからないように、器用に避ける。
あるいて
アルイテ
歩いて
歩いているうちに、訳のわからない思いが、胸に込み上げてきた。
焦り
怒り
苦しみ
劣等感
不安
悲しみ
恐怖
そして、強い孤独感
数えきれない、数えられない負の思いが雨音の心を襲う。
「なにこれ‥‥―。」
雨音はとまるが、この感覚は消えることはない。
自然にあいてる左手で胸を押さえ、深く呼吸をする。
そうでもしないと、息が出来なくなりそうだ。
パシャパシャと水が跳ねる音が。
ザワザワと人混みの音が。
ピヨピヨと信号が青くなったことを伝えたる音が。
ブンッと車とすれ違う音が。
いつもと違うように感じて仕方ない。
一つ一つが、ぐるぐると雨音の頭の中で大きく響き渡る。
雨はバシャバシャと勢いを増した。
歩かなきゃ。
そう思い、雨音はまた歩き出した。
いまだ左手は、胸を押さえながら。
目の前の信号を渡ろうと一歩踏み出したとたん、ぐにゃり視界が歪んだ。
世界が歪んだ。
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