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蕎麦の独特な匂いで、目を覚ました。
「起きたか。」
知らない家の、天井が見える。
声をしたほうを見ると、仏頂面の男がどかりと座っていた。
男は髷に、着物を着ている。
男は体格もよく、腕は雨音の二倍くらいだろう。
顔に刻まれている皺は、年齢を感じさせる。
「は?」
ぼやけた頭では、何も考えられない。
だが口からは、思っていたことが素直に出た。
男は気にすることなく、無表情のまま続ける。
「気分はどうだ?」
意味のわからない状況の中でも、答えなきゃいけないと思い、口を開く。
「あっ、大丈夫です?。えっ?ここは?」
だが、疑問は消えない。
尋ねながら、横になっている体を起こした。
今わかるのは、和室に自分が布団の中で横にされてること。
そして、目の前には江戸時代のような格好の男がいることのみ。
整理したが、全くもって訳がわからない。
「覚えてるか?おめぇさんは、俺の店の前で倒れてたんだよ。」
覚えてません!なんて言えるわけなく、「はぁ。」と相槌をうった。
雨音は、すっと頭を下げた。
「すみません。助けてくださって、ありがとうございま‥‥‥え?店?」
頭を下げたまま、首をひねる。
「ここは、俺の店の蕎麦屋だ。」
確かに部屋中は、蕎麦の匂いが、染み付いている。
「なんだ?おめぇは異人か?」
いじん‥‥―。
イジン‥‥―。
「異人!?」
「‥‥―奇妙なもん、着てるって本当なんだな。」
男は相変わらず無表情だが、感心したように頷いた。
「いやいや、私は純日本人ですよ!!」
見てわからないんですか!?と付け足した。
何を言ってるの、この人は。
今まで生きてきた中で、「異人か?」なんて聞かれたことない雨音は、少し声を張り上げた。
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