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ああ、頭がぼやぼやする。
「おい、お前。起きろ」
誰かがあたしを呼んでいる気がする。しかし、それにしても低くて、澄んでいて、色気のある声だ。
さぞかしお顔も美しいことだろう。予想に反していたら、まあ、そん時はそん時。自分の勘は当たりにくいと思う程度だ。
「──おい、起きやがれ!」
しかししつこいなこの人。いくらイイ声だからって、しつこいとマイナスなんだよマイナス。大体、休日の朝は寝るもんだ。
せっかく念願の独り暮らしをしてるんだから、もう少し寝かせてくれ。
(──ん?)
「~~ッんの、鈍女!起きろっつってんのが聞こえねーのか!」
とうとう肩を掴まれて、前後に揺すられ始めた。
頭は痛いわ握られた肩が痛いわ揺すられたせいで気分が悪いわ、全く最悪だ。
それでも眠い。
あたしのこの健やか且つ素晴らしい睡眠を妨げられるわけにはいかない。
いかない、が。
「いい加減にしねえと……ミイラにすんぞコラ!」
「──…、れ」
体以上に重い口をなんとか動かして、ゆっくり声を出す。
眉間に皺を寄せられたのが分かった。
「……あなた、だ……れ……」
「はん、やっと目が覚めやがったか。いいか、聞いて驚くなよ?俺は──」
「すぴー」
「寝るなよ!この状況で二度寝とかすんな空気読め!……おい、おい!?」
***
すっかり日が昇り、小鳥のさえずりではなく、外を歩いている人たちの声が聞こえる。
いつもの朝の光景だ。
「ふわぁー!よく寝た!」
「死ねくそアマ!」
「何!?てか誰!」
起きて一発目に罵声とか初めてなんですけど!
「うるせぇ!人がせっかく自己紹介してやろうってんのに……!」
「は、はぁ……」
「寝るか普通!?」
どういう神経してんだ、と訴えてくるのは、それはそれは見目麗しい青年だった。
白磁のように白く滑らかな肌に、さらさらした漆黒の長めの髪、高級そうな黒いスーツ、(あ、ネクタイ緩めだ)(ヤバ萌える)そして一際目を引くのが、赤い紅い、鋭い瞳だった。
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