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「あ?なんだよ」
「いやー、綺麗な方だなぁと」
「ハッ!綺麗ねぇ。ンな見え透いた世辞なんざで俺の機嫌が良くなるわけねえだろうが」
「え」
「残念だったな」
そう言ってにやりと笑う男の人は、文句なしに格好良かった。
反論しようとしたが、どこか自嘲的で、悲しげな彼の目を見ると、思わず口を次ぐんでしまった。
「で、此処は何処だ?」
「あたしの部屋ですけど……」
「つーことはお前の家か?」
「違います。此処はアパートです」
「あ?アパート?」
「貴方こそ誰ですか?」
「何でアパートなんだよ」
「無視ですか」
「俺はずっと城にいたんだぜ。こんなボロっちい箱みてーなトコ初めてだ」
「……城?」
どうやら、この人はカッコいいけど厨二病らしい。
そう考えれば、なんかのコスプレっぽいよな、この人。
「……えーと、よく分からないんですけど、とりあえず、貴方の家は城だと」
「ったりめーだろ。俺は夜の貴族とも言われてんだぞ」
「……………」
だいぶ重症のようだ。
「はい、分かりました。今回の件に関しましてはこちらも黙っておきますので、どうぞお引き取りください」
「お前のせいでこうなったんだぞ、どうにかしろ」
「いえいえ。わたしはただ眠ってて、起きた瞬間罵られただけで完璧で完全なる無実――というか寧ろ被害者ですからね」
「俺だって目が覚めたら狭苦しい箱みてぇな部屋にいて、ワケわかんねえクソガキにも寝られたっつー完璧な被害者なんだよ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………だぁああああ!クソッ、俺が何とかすりゃ良いんだろ何とかすりゃあ!」
「(あ、折れた)」
もしかして、好い人なんだろうか。
よく分からないけど、自分で解決してくれるようだ。
「――つっても、生憎俺も腹が減ってて力は存分に出せねえ」
「(力?)はぁ……。我が家は毎朝米が基本ですが構いませんか」
「あ?人間の食うもんなんざいるかよ」
「え」
何、を、言っているんだろうか、この人は。
厨二病というか、コスプレイヤーというか、この人の発言は、寧ろ、まるで、
(――"人じゃない"みたいじゃないか)
不意に、男性の手が触れた。
冷たいと言うより、"体温がない"と言った方が正しいだろう。
触れられた瞬間、ぞくり、と、肌が泡立つ。
反射的に男性を見上げると、わたしとは対称的に、すっと目を細めて、笑っていた。
その瞳に映ったわたしは、赤く染まっていた。
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