10人が本棚に入れています
本棚に追加
(――あ、)
身の危険を感じたときには、もう遅かった。
がり、と嫌な音がしたかと思うと、頭の中がぐずぐずに溶けているような、それでいて首を中心に、身体の内側が熱くなるような、そんな感覚。
ふわふわする。熱い。気持ちいい?気持ち悪い?分からない。分から、ない。
怖い。
これは分かった。
これだけは分かった。
自分が自分じゃなくなる、感覚。
「ひ、ィっ……!」
離してほしい。やめてほしい。
なのに、わたしは、ただ彼の背中にすがり付く事しかできなかった。
情けない。
……もう、どのくらいの時間が経っただろうか、ようやく熱が離れた。
長かった気もするし早かった気もするが、体力が限界に近いことには代わりがない。
ただでさえ、体力には自信がないのに。
「はァっ……!」
「……ま、こんなもんか」
「何をッ……」
「あ?この期に及んでまだわかんねえか?」
彼は、赤い血を舐めとりながら、そう言った。
まごうごとなく、わたしの血だった。
「お前らが『吸血鬼』って呼ぶ存在だ」
「―――――」
「もう寝ろ。起きた頃には全部終わってるからよ」
優しい声だった。
不思議なことに、彼の目を見れば、先程まで不安定だった気持ちが落ち着いていった。
そうしてそのまま、わたしは意識を手放したのだった。
→
最初のコメントを投稿しよう!