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目が覚めると、もう既に夕方だった。
さすがに寝過ぎた。これでは今晩眠れない。
それにしても、変な夢を見た。
夢、で、良いのだろうか。首筋には、くっきりと牙が食い込んだあと。
「………おい」
……たちの悪い夢だ。
目の前で不機嫌そうにわたしを睨み付ける美人な男性も、きっと幻覚かなんかだろう。
「おいっつってんだよ!」
「何でまだいるんですか帰ったんじゃないんですか!」
「帰れなかったんだよ!見りゃわかんだろーが!」
「分かりますけど、信じたくないんです!」
「俺だって信じたくねえよ!」
なんて不毛な言い争いだろうか。
いや、でも、こちとら倒れるほどの血をあげたのだ。それでもなお駄目だったと言うのなら、あげた甲斐がない。
「あーもう知らねえ!お前なんざどっか行きやがれ!」
「ここはわたしの部屋なんですけど!」
「なら主人らしく客人をもてなせってんだ!」
「いっそ清々しいほどに図々しい……!」
眉目秀麗、天上天下。
そんな吸血鬼な彼とただの人間であるわたしの共同生活は、始まったばかりだった。
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