10人が本棚に入れています
本棚に追加
わたし、春日きりえは大変居心地が悪かった。
なぜか。
それは、不機嫌なオーラをちっとも隠さない、目の前の美人に原因がある。
「……あのですね」
「あ?」
「とりあえず、挨拶、しましょうか」
「何で」
「何でって……名前知らないからなんて呼べば良いのか……。あ、わたしは春日きりえっていいます」
「きりえ、ねぇ」
美人さんはまるで値踏みをするような目付きでわたしを見据えた。
畜生、腹が立つけど様になってる。けど腹立つ。
「いけ好かねえ名前だな」
「え」
「俺はレオルカだ」
「……レオルカ、さん」
「おう」
そう言って美人さん――もといレオルカさんは、大して興味なさげに用意してあったぽた●た焼き(わたしこれ好きなんだよね)を手に取った。
今世紀最高峰の(ただし、わたしの推測である)美人の手に、ぽた●た焼き。決してぽた●た焼きを愚弄しているわけではないが、見事にアンバランスだ。
堪えろ、わたし。吹き出すな!
吹き出した瞬間ミイラになると思え!
「……で、レオルカさんは、」
「あんだよ」
「吸血鬼、なんですよね?」
「おう。まだ信じらんねえってんならもう一回吸うぜ?」
「結構です」
舌打ちするレオルカさんを他所に、わたしはバレないよう溜め息を吐いた。
随分と現実離れしたことが起きたものだ。
異世界トリップ。空想の世界の出来事だと思っていたが、どうやら考えを改めた方がいいらしい。
→
最初のコメントを投稿しよう!