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「父様。どちらにいらっしゃるのですか?…あ…兄様。父様はどちらですか?」
「紀乃。父上ならば現在執務をしている筈だが…行くか?」
「はい。兄様。あら…?父様はこちらにおられるようですが…」
「紀乃?どうかしたか?こんなとこで…」
石田とあの日会ってからもう五年
高継は八歳で紀乃は七歳になった
誰に似たのか俺に対して性格が子憎たらしい高継に…吉継そっくりで可愛い紀乃を育ててる
まさか俺が子育てなんて…誰が出来ると思ってただろうな
「父様。これ…母様の字ですか?お文みたいですけど…まだ読まれてないみたいです。ご覧にならないのですか?」
「ああ…。そうだな…。もう読んでもいい頃なのかもしれねぇな。あの頃は読む余裕なんてなかったけど…。…お前らも見たいか?」
「はい。執務をさぼっている父上が読んでくださるなら」
「返す言葉もねぇな…。誰に似たんだよ…。そういうとこ…。…じゃあ…読むぞ」
『今、この文を君が読んでいるのはいつだろうな
だが…君と見たあの薄紅の花は散っている頃だろう
この文は…君だけでなく…高継と紀乃にも見せて欲しい
佐吉から文を受け取ってくれたことは嬉しく思う
私はもう君の側にはいないだろう
それでも…どうか悲しまないで欲しい…
…泣かないでくれ
これは、すでに判っていたことなのだから
それに…君の側には高継や紀乃がいる
今は…心はとても穏やかだ
あの日、君と出逢えて過ごせた奇跡が今も胸に吹雪いて…懐かしい程だ
…私らしくないことを言ったな…
どうか…私達の子供を君の手で育ててくれ
その二人は…私の遺せた唯一のものだから
高継も…紀乃も…私の大切な子供だから…
最期に…もう一度心から
君を…愛しているよ…』
吉継…
ずるいよな…
これだけ書いていて…俺からは何も言わせねぇ…
敵わねぇな…
…桜か…
全てを薄紅に染めていく
桜の花びらよ
甘やかに舞え…
あいつのいる所に…花は見えなくても…
せめて香りは届くように
…心から…愛してる
吉継…
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