手活けの花

11/13
前へ
/73ページ
次へ
ある日、女は自分の店で男を待っていた。 長い間待っていたのに来なかった。 諦めかけた頃やってきたのは男の2番目の女、元雇い主だった。 閉店間際に現れた元雇い主は、小雨に濡れたのだろうか。 番傘を畳み、粋な白い絽の着物に合わせた黒の帯を締めている。 着物はたいそう金がかかっており、女は男の力を思い知らされる。 「元気なの?」 スツールに座った元雇い主の女は相変わらずヌラヌラとして艶やかで、女は男の好色さを思い浮かべ、唇を噛み締めた。 はい。元気です。 元雇い主の女はビールを飲む。 コクコクと飲む喉元をひねり潰してやりたい。 こう考えて女はカウンターの下で手を握り締める。 「しばらく来ないわよ。あの人」 え? 女は絶句する。 「また新しい“魚”を飼ったのよ」
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

453人が本棚に入れています
本棚に追加