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ある日、女は自分の店で男を待っていた。
長い間待っていたのに来なかった。
諦めかけた頃やってきたのは男の2番目の女、元雇い主だった。
閉店間際に現れた元雇い主は、小雨に濡れたのだろうか。
番傘を畳み、粋な白い絽の着物に合わせた黒の帯を締めている。
着物はたいそう金がかかっており、女は男の力を思い知らされる。
「元気なの?」
スツールに座った元雇い主の女は相変わらずヌラヌラとして艶やかで、女は男の好色さを思い浮かべ、唇を噛み締めた。
はい。元気です。
元雇い主の女はビールを飲む。
コクコクと飲む喉元をひねり潰してやりたい。
こう考えて女はカウンターの下で手を握り締める。
「しばらく来ないわよ。あの人」
え?
女は絶句する。
「また新しい“魚”を飼ったのよ」
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