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突然手を引っ張られたため、卓は不恰好によろめいた。
「…姉ちゃん!?」
「あたしが何も知らないと思った?」
唖然と佇む牧師をよそに、卓の手を掴んだまま、杏奈がようやく顔をあげた。
「ばかにしないでよ、もう」
呆れたような、そして悲しい表情だった。
今周りにいる誰もが、状況を把握できていない。しかしだからこそ、静かにことの成り行きを見守っている。
「卓ちゃん」
杏奈が卓に向き直り、ベールをめくる。
「お父さんとお母さんを取り上げたのは、あたしのほう」
卓の目を真っ直ぐ見て言葉を続ける。
「二人があたしばかりに構うのを、卓ちゃんがどんな風に見てたか、本当は知ってたよ。」
最初はしっかりとした声だったが、だんだん震えてくる。
「だけどあたしは二人を独り占めにして甘えたかった。」
「姉ちゃん何で、今そんなことを…」
卓は杏奈を見つめ返した。
瞬きをしたら、今にも泣き出してしまいそうだ。
「今だから、なの。結果的にあたしは…卓ちゃんから二人を本当に取り上げちゃったのよ…」
杏奈の涙に誘われるように、卓も泣いていた。
「姉ちゃんのせいなんかじゃ…」
「傲慢な姉でごめんなさい…」
杏奈が卓を強く抱き締めた。
「だから今度は卓ちゃんが独り占めにしていいの」
卓の髪を、優しく数回撫でた。
「あたしに遠慮することなんかないのよ、正嗣を愛してるんでしょう?」
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