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「川崎」
突然名前を呼ばれた少年、川崎は振り返って頭を下げた。
彼の知ってる声であり、先輩であり、尚且つ咎めるような口調だったから。
「佐藤先輩、式は」
「祝辞は言い終わったから、お前が退学処分になるって生徒会内では専らの噂だが、本当なのか?」
川崎は目を見開く。
もう噂になるほどなのか、といいたげに。
上から突き刺すような視線の佐藤に、川崎は諦念に似た表情で、しかし軽めに言った。
「本当です。今、兄が必死になって抗議しに行ってくれてるんですが、多分ムリなことは僕にも分かりました」
「原因は?」
「言えません、でも理由も新学期あければ噂になると思います」
「佐藤先輩、今までお世話になりました」差し出された退部届。届、のあたりのインクが滲んでいた。
ちょうど、青年が校舎から憔悴した顔で出てきた。佐藤もよく知っている顔。
「佐藤くんか、弟がお世話になったね。……共、帰ろう」
滅多に感情を表すことのない端正な顔が、今は揺れていた。
「カズ兄」
悟った共も、顔を覗き込む。
「帰ろう」
二度目の言葉は柔らかかった。
退学処分の理由はまだわからないまま、佐藤は二人の後ろ姿をみた。
「理由…か」
特待生入学だった彼を退学にしたような、わけ。
「調べてみるか」
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