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「して、ガルゼトはなんと?」
外交大臣は、バロザの背後に燃え盛る炎の幻影をちらと垣間見た。
これから自分が伝えねばならない伝言は、一国の主の怒りを加速せざるをえないと、彼は内心怯えている。
外交大臣を促すように獅子の咆哮(ホウコウ)を思わせる雷鳴が空から放たれる。
稲妻の光を背に受ける目の前の王の影には、いつもの豪快で優しい面影なぞ微塵もない。
彼は遂に決心し、一つ一つ言葉を紡ぎ、ガルゼトからの伝言をバロザに伝えた。
『バイデンの竜の翼が日の光を遮り空を支配するのを、粗末な枝の巣の中で震えながら見ているがよい。我が国は既に、戦いの準備を始めている』
「……と、このように仰せておりました……」
報告を聞いたバロザはかつての友の変わり様に心底失望し、更に怒りをつのらせる。
ガルゼトの野望を阻止せねば。こんな事で、軍を動かす事すら馬鹿馬鹿しいと思ってはいたが、民を護らねばならないのは王だ。
「……そうか。こんな悪天候の中、遣いに出して悪かった。湯を浴びて体を休めておけ」
ぺこりと王に一礼をして、外交大臣はその場を後にした。
バロザは王の間の扉を閉めて、玉座の前に散乱する手紙を片付けようともせず、自分の寝室へと向かった。
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