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「別にいいってのに、この前の礼に持ってけって、実家から野菜が大量に送られてきちまって」
紅朱はその空気を察することなく平然と、話し続ける。
「しょうがねェから明日か明後日にでも届けようと思って連絡したら、今日しか都合が合わねェって言うから」
「……兄貴、日向子さんの連絡先、知ってたんだ……?」
「あ? おお、帰り際に携帯教えてったからな。それがどうかしたか?」
「……」
玄鳥は苦手な刺激の強いガムを大量に口に放り込まれたような顔で軽くよろめいた。
「……おい、しっかりせいや」
「ほら、紅朱はリーダーじゃん! だからなんだって!」
左右両脇から思わず支えてしまう有砂と蝉。
それでもまだ紅朱はなんにも気付いていなかった。
「しかし、あの女も随分気に入られたもんだよな。野菜と一緒に入ってたババアの手紙に『あんな素敵なお嬢さんがお前のお嫁さんになってくれたらいいのに』とか書いてあってよ……わけわかんねェ」
「……母さんまで……あぁ……俺、もう無理かも……」
「玄鳥しっかりして。ボクが応援してあげるから」
「……なんでこんなに色恋に鈍感な奴がラブソングとか書けるんやろ……」
「ヤバイじゃん、こんなとこに伏兵がいるとは……」
「は?? お前ら何言ってんだ??」
それはまだ始まったばかりの、あるラブストーリーの小さな欠片だった。
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