《第1章 人魚の足跡 -missing-【1】》

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「月並みな質問ばかりで恐縮ですが、いくつかお伺いしてよろしいですか?」 「うん、いいよ。でもね、ボクもお姉さんに質問していい?」 「はい? わたくしに、万楼さんが質問をなさるんですか??」 「お姉さんがボクにひとつ質問をしたら、ボクもお姉さんにひとつ質問をするんだ。ダメかな?」 「それは構いませんけれど……」 「決まりだね」  heliodorのリーダー・紅朱から正式に取材の許可を得た日向子は、まず最初に各メンバーへのパーソナルインタビューを行うことにした。  今月はまずベースの万楼、ドラムの有砂、キーボードの蝉からそれぞれ話を聞くつもりで、その中で最初に取材の予約がとれたのが万楼だった。 「このお店をよくミーティングに使われてるそうですわね?」 「それが最初の質問? そうだよ。ボクが入る前からだから聞いた話だけど、ここのカフェは元々玄鳥のお気に入りだったらしいんだ。お姉さんも好きだったなんてびっくりだね」  そこは日向子がよく美々と来る店……あの、紅朱たちと初めて遭遇した店だった。 「ボクたちが集まるのはだいたい夜が多いから、お姉さんたちと一緒になる機会は少なかったかもしれないけど、いつかここで会っていたかもしれないなんて、すごい偶然だよね」  そう言いながらメロンソーダをストローでかき回し、そして、ちらっと日向子を見る。 「……運命を感じない?」 「ええ、本当に。ではまたわたくしの番ですわね」 「……流されちゃった」 「はい?」 「なんでもないよ」  万楼はそしらぬ顔でマロンプリンをスプーンですくう。  万楼の目の前にはメロンソーダとマロンプリンの他にも、洋梨とチェリーのカスタードパイ、ミントを添えたチョコレートムース、熱々の特製スイートポテト、そして単体でも迫力十分なジャンボフルーツヨーグルトパフェがテーブル狭しと並んでいる。  一方の日向子はレアチーズケーキと紅茶を頼んだだけだったが、その光景を見ているだけで胸がいっぱいになりそうだった。 「スウィーツがお好きですのね?」 「うん。大好き。みんなが色々言うから普段はこんなに頼めないんだけどね。本当に、ここのは全部おいしいんだ。そういえば、そのチーズケーキは玄鳥も好きだって言ってたよ」
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