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「……というわけで、とっても変ですのよ」
「……左様でございますか」
その頃日向子はいつものように帰宅中だった。
いつものように今日の出来事を一方的に報告されているのは、ドライバーの雪乃である。
「一体なぜ万楼様は玄鳥様のお話ばかりなさるんでしょうか……?」
「さあ……私には何とも」
「そうですわよね……雪乃に聞いてもわかるわけないですわねぇ……うーん」
ちょうどマンションの前に停車した車から降り、日向子はほとんど上の空の状態のまま「どうしてかしら」と呟きながら、ふらふらと部屋に帰って行った。
それを見送った「雪乃」は、一つ息をついたかと思うと眼鏡をさっと外して胸ポケットに突っ込んでハンドルに突っ伏した。
「あ、い、つ、ら~……あんだけ念押したのに。うちのお嬢様にみすみす悪い虫つけさすわけにいくかっての……」
《もしもし、日向子ちゃん?》
「はい、森久保日向子です」
就寝間際に日向子の携帯に着信したのは、意外な人物からのコールだった。
《おれおれ、heliodorの蝉くんです♪》
「まあ、蝉様からお電話を頂くとは思いませんでしたわ。ありがとうございます」
パジャマ姿でベッドに横座りしたまま、日向子は電話にも関わらず深く一礼した。
「取材の日程についてのご連絡でしょうか?」
《いや、ごめんね。今日はそーゆーことで電話したんじゃなくてさ、万楼のことでちょっと》
「万楼様ですか?」
《んー、あのさ、今日は万楼の取材だったんだよね? あいつさ、なんかめちゃめちゃ玄鳥の話してこなかった?》
「まあ、どうしておわかりになりましたの!?」
《やっぱな~……だと思ったんだよな~》
どうやら何かを知っていそうな蝉に、日向子はそわそわし始める。
「蝉様はご存じですのね? 万楼様があのように玄鳥様のことばかりお話になるわけを」
《んー……誰にも言わないんだったら教えてあげてもいいんだケド》
「はい。もちろん誰にも口外致しませんわ」
電話にも関わらずなんとなく身を乗り出す日向子。
《実はさ……》
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