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《第1章 人魚の足跡 -missing-【2】》
「……えげつな」
吐息まじりにぽつりと呟いた有砂に、蝉は浮かない顔のまま視線だけを向けた。
「……なんとでもどーぞ。どうせ完っ全に計算ミスだし……」
すぐ近くで、鼻唄を唄いながらギターをチューニングしているおめでたい青年を見やって、深く嘆息する。
「なんでこうなるかな~……」
「邪魔するつもりが、裏目に出たか。……ジブンの立場もまあ、わからんこともないけどな……せめて、もう少し手段は考えたらどうや?」
「……手段なんか選んでる暇なんてないから」
視線を落とすと、そこには規則的に並んだ黒鍵と白鍵がある。
蝉が最も愛し、最も疎む世界がそこにある。
「……おれは『釘宮漸』でいるためなら、なんでもするよ」
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