《第1章 人魚の足跡 -missing-【3】》

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 玉葱。 「ボクの家は母子家庭なんだけどね」  人参。 「ママはアメリカの食品研究所の研究員なんだ。詳しくはよくわからないけど、ダイエット食品とか栄養補助食品とか、なんかそういうのを研究してるみたい」  じゃが芋。 「ボクもジュニアハイスクールまではアメリカにいたんだけど、ママはほとんど家に帰って来なくて、ハウスキーパーのおばさんがボクの世話をしてくれてた」  茄子。 「ボクはおばさんが作る料理が口に合わなくて、お菓子ばっかり食べてた」  トマト。 「今思うとおばさんの料理が下手だったわけじゃなくて、ママがおばさんに使うように指示してたサンプルの加工食材がまずかったんだけどさ」  パプリカ。 「……そうやって、ママをボクを使って実験のデータを取っていたんだよ。頭のいい人が考えることはすごいよね」  コーン。 「……一度すごいアレルギーが発生して病院に運ばれたことがあったんだけど、ママはすぐに病院に飛んできた。 お医者さんに100個くらい質問して、ボクにもその倍くらい質問項目があるアンケート用紙をくれて、必ず全部記入するように念を押して、研究所帰ったよ……」  ブロッコリー。 「その時に、独り暮らしして日本の高校に行こうって思ったんだけどね」  エレンギ。 「……野菜はこんなところでしょうか」 「そう。次は?」 「ではお肉を」 「えーっと……あっちだね」  野菜でいっぱいのショッピングカートを押しながら、精肉売り場に向かう万楼の後ろ姿を一歩後ろから見つめる日向子。  万楼が、まるで他愛ない失敗談でも語るように話した言葉が、胸に重くのしかかった。 「……お辛かったのでは?」 「わからない。それがボクの普通だったし。でも、お菓子以外のものにあんまり食欲が湧かないのはそのせいかもしれない……あ、こっちはお魚か。お肉はあっちだった」
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