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「命に別状はないそうですわ」
「……顔色も、思ったよりよさそうでよかった」
玄鳥は安堵の溜め息をついた。
「蝉さんと有砂さんには俺から連絡したから、もうすぐ来ると思います」
緊急病院のベッドに横たわる万楼は、瞳を閉じても端正な美貌を無防備に晒して寝息を立てている。
「で、原因はなんだ」
苛立った様子で紅朱は一歩日向子ににじり寄った。
「なんでこうなった?」
紅朱は作詞作業をしていた時の部屋着のジャージ姿のままだった。
「はっきりとはわからないのですけれど……カレーに入れた材料のうちのどれかがアレルゲンだったのではないかと、お医者様がおっしゃってましたわ」
「アレルゲン?」
「はい。万楼様は以前にも、食品アレルギーで病院に搬送されたことがあるとおっしゃっていましたし……その可能性が高いのではないかと。
特定は出来ておりませんけれど……」
日向子は今にも泣きそうな顔でうつむく。
「わたくしの責任ですわ……」
「そんなことないですよ!」
思わず声が大きくなってしまう玄鳥だったが、すぐにそれが不適切であると気が付いてトーンを落とした。
「誰だって予想もしないでしょう……こんなこと」
日向子を安心させようと穏やかな口調で話し、そっとか細い肩に手を置いた。
「……万楼だって日向子さんを責めたりしないですから、心配しないで」
「ありがとう、ございます……」
日向子もようやくわずかに微笑を返した。
玄鳥は今更照れを感じて、日向子に触れていた手を引っ込めた。
「……俺、なんか甘い物買って来ます。起きたら欲しがるだろうし。メロンソーダ、あるかな……」
そうして玄鳥は小走りで病室を出て行った。
残された紅朱と日向子はしばらくつっ立ったまま黙っていたが、しばらくして日向子が口を開いた。
「紅朱様」
「……なんだ」
「もしも」
日向子は真っ直ぐ紅朱を見つめた。
「万楼様が目を覚まされなかったらどうなさいますか?」
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