《第1章 人魚の足跡 -missing-【4】》

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「命に別状はないそうですわ」 「……顔色も、思ったよりよさそうでよかった」  玄鳥は安堵の溜め息をついた。 「蝉さんと有砂さんには俺から連絡したから、もうすぐ来ると思います」  緊急病院のベッドに横たわる万楼は、瞳を閉じても端正な美貌を無防備に晒して寝息を立てている。 「で、原因はなんだ」  苛立った様子で紅朱は一歩日向子ににじり寄った。 「なんでこうなった?」  紅朱は作詞作業をしていた時の部屋着のジャージ姿のままだった。 「はっきりとはわからないのですけれど……カレーに入れた材料のうちのどれかがアレルゲンだったのではないかと、お医者様がおっしゃってましたわ」 「アレルゲン?」 「はい。万楼様は以前にも、食品アレルギーで病院に搬送されたことがあるとおっしゃっていましたし……その可能性が高いのではないかと。 特定は出来ておりませんけれど……」  日向子は今にも泣きそうな顔でうつむく。 「わたくしの責任ですわ……」 「そんなことないですよ!」  思わず声が大きくなってしまう玄鳥だったが、すぐにそれが不適切であると気が付いてトーンを落とした。 「誰だって予想もしないでしょう……こんなこと」  日向子を安心させようと穏やかな口調で話し、そっとか細い肩に手を置いた。 「……万楼だって日向子さんを責めたりしないですから、心配しないで」 「ありがとう、ございます……」  日向子もようやくわずかに微笑を返した。  玄鳥は今更照れを感じて、日向子に触れていた手を引っ込めた。 「……俺、なんか甘い物買って来ます。起きたら欲しがるだろうし。メロンソーダ、あるかな……」  そうして玄鳥は小走りで病室を出て行った。  残された紅朱と日向子はしばらくつっ立ったまま黙っていたが、しばらくして日向子が口を開いた。 「紅朱様」 「……なんだ」 「もしも」  日向子は真っ直ぐ紅朱を見つめた。 「万楼様が目を覚まされなかったらどうなさいますか?」
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