《第1章 人魚の足跡 -missing-【4】》

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「ほら、わたくしが言った通りになりましたでしょう?」 「うん……でもお姉さん、痛かったんじゃない?」 「ええ、少しだけ。紅朱様、本気でお怒りなんですもの」  と言いながら、日向子は本当に嬉しそうだった。 「万楼様は胸を張っていいのです。昔は、違ったかもしれない。これからのこともわかりません。 けれど今、heliodorのベースは……大切な仲間は、万楼様だけですのよ」 「……うん」  万楼はうっすらと涙の滲む目を手の甲で拭って、跳び上がるようにして上体を起こした。 「ボク、感動した。リーダー、ありがとう!」  当のリーダーはまだ固まったまま、呆然としている。 「……どういうことだ……何が起きてる?」  日向子と万楼は視線を合わせて笑いあった。 「ごめんなさい、紅朱様」 「全部、嘘だったんだ」 「毒……」 「え? お姉さん、そこで真剣な顔しないで。洒落にならなくなるよ?」 「……万楼様、わたくし今……いけないことを思いついてしまいましたの」 「……いけないこと?」  ぐつぐつと湯気を立ち上らせる鍋にルーを割り入れながら、日向子は「いけないこと」について話し始めた。  日向子の家が懇意にしている病院に協力してもらい、万楼が緊急入院したという芝居をする。  その時の紅朱の反応を見れば、実際万楼をどう思っているかわかるのではないか?  そしてそれはそのまま、かつて少年時代の万楼を失望させた状況をなぞっている。  その時と違う結末になれば、万楼は救われるかもしれないと日向子は思ったのだ。  もちろん、賭けに負ければ万楼はもっと傷付くかもしれないが……。 「わたくしは、紅朱様なら大丈夫だと信じられますわ」 「……どうして?」 「お優しい方だからです」  日向子は鍋をかき回しながら微笑する。 「そういうキャラでは売ってない、そうですけれど」
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