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「……じゃあ何か、お前たちは病院ぐるみの壮大なドッキリで俺をハメたのか」
「……お怒りでいらっしゃいますか?」
日向子はおずおずと紅朱の顔を覗き込む。
「……お前は本当に、無茶苦茶な奴だな……怒る気も失せる」
紅朱は深く嘆息して目を半眼した。
「紅朱様は本当にお優しい方ですわね」
「だからッ、優しいとか言うなッ!!」
「ねえ、リーダー。『大切じゃないわけねェだろ……!!』っていうのもっかい言ってよ」
「二度と言うかッ……!!」
「大丈夫ですわ、万楼様。ちゃんと残ってます」
日向子はスーツの左ポケットから愛用のICレコーダーを覗かせた。
「いつでも再生可能ですわよ」
「なっ……!! なんて悪質な嫌がらせしやがんだ!! 勝手に録ってんじゃねェ!! 消せッ」
「うふふ。では、力ずくでわたくしから奪取なさいますか?」
「……あのな、女に力ずくなんて手段使えるわけねェだろ」
「ほら、お優しい」
「お優しい言うな~ッ!!」
髪の色がそのまんま降りてきたかのように顔を真っ赤に染めたバンドのリーダーと、限りなくマイペースな無敵の令嬢のきりなく続く掛け合いを眺めがら、万楼は心から笑って、笑いながら、また少しだけ目をこすった。
「……ねえ、本当に……ボク、嬉しかったよ」
じきに病院スタッフが厳重注意しにやって来るに違いない、騒々しい病室をスライド式のドアの隙間からそっと伺う2つの影があった。
「……なんや、ホンマにジブンの仕業ちゃうかったんやな」
「……当たり前じゃん。どこの世界に自分のバンドの仲間を毒殺するキーボーディストがいるわけ?」
「手段なんか選んでる暇なんてない、んやろ?」
「そりゃ確かに言ったけどさ~……今回おれが渡したのはガチで普通にスパイスだから。
せっかくならおいしいカレー作って食べさせてやりたいじゃん……今まで縁が無かったんだからさ」
蝉と、有砂だった。
「それ……『スノウ・ドーム』の自家製スパイスやろ? ジブンにとっては『おふくろの味』ってとこか」
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