《第1章 人魚の足跡 -missing-【4】》

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「そんなカンジ。そういえば、粋が気に入ってよくせびってきたな~。万楼たちは使ったかな……気に入るといいんだケド」  そう言って笑う蝉を、有砂は少し冷ややかに見ていた。 「……ホンマ、悪になりきれん悪役やな、ジブン」 「うっ」  ばつが悪そうに頭を垂れる蝉を、有砂が斜め上から見下ろし、小馬鹿にしたように笑う。 「案外……お前より、令嬢のほうがよっぽども策士かもしれへんで……なあ、雪乃……?」 「はいはい……その呼び方はあのコ限定ね」  蝉は斜め上を見上げてぺろっと舌を出した。 「でもマジで言えちゃってるかもしんないね~……あの父にしてこの娘ってカンジ? DNA怖ッ、みたいな」  蝉の顔に一瞬、暗い影がよぎる。  それは「蝉」ではない、もう一つが顔を出した。 「……だけど釘宮の後継はおれなんだよ。この椅子を守るためには、何人たりともお嬢様には指一本触れさせないからな……」 「……それは、難儀なことやな……」 「……二人とも、なんで中に入らないんですか?」 「うわッッ……!!」  蝉は前ぶれなく後方から掛けられた声に、遮蔽物には最適な有砂の長身の陰に隠れた。  コンビニで買った大量のケーキとジュースを持った玄鳥がただ一人、何も知らずに呑気に帰って来たのだ。 「玄鳥っ、今の話聞いてた?」 「話? いえ……なんですか?」 「聞いてないならいいんだケドね」  胸を撫で下ろす蝉とは対称的に、有砂はあからさまに不快そうに顔を歪めた。  それに気付いた玄鳥は大して意味はないと知りながら、手荷物を背中に隠す。 「……ケーキの匂い、キツイですか? 有砂さんのコーヒーも買ってありますから」 「……吐き気がしそうやな」  蝉は苦笑して頭を振る。 「マジで極端だよね。うちのリズム隊。お菓子しか食べないのと、お菓子が食べれないのと……さ」
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