198人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんなカンジ。そういえば、粋が気に入ってよくせびってきたな~。万楼たちは使ったかな……気に入るといいんだケド」
そう言って笑う蝉を、有砂は少し冷ややかに見ていた。
「……ホンマ、悪になりきれん悪役やな、ジブン」
「うっ」
ばつが悪そうに頭を垂れる蝉を、有砂が斜め上から見下ろし、小馬鹿にしたように笑う。
「案外……お前より、令嬢のほうがよっぽども策士かもしれへんで……なあ、雪乃……?」
「はいはい……その呼び方はあのコ限定ね」
蝉は斜め上を見上げてぺろっと舌を出した。
「でもマジで言えちゃってるかもしんないね~……あの父にしてこの娘ってカンジ? DNA怖ッ、みたいな」
蝉の顔に一瞬、暗い影がよぎる。
それは「蝉」ではない、もう一つが顔を出した。
「……だけど釘宮の後継はおれなんだよ。この椅子を守るためには、何人たりともお嬢様には指一本触れさせないからな……」
「……それは、難儀なことやな……」
「……二人とも、なんで中に入らないんですか?」
「うわッッ……!!」
蝉は前ぶれなく後方から掛けられた声に、遮蔽物には最適な有砂の長身の陰に隠れた。
コンビニで買った大量のケーキとジュースを持った玄鳥がただ一人、何も知らずに呑気に帰って来たのだ。
「玄鳥っ、今の話聞いてた?」
「話? いえ……なんですか?」
「聞いてないならいいんだケドね」
胸を撫で下ろす蝉とは対称的に、有砂はあからさまに不快そうに顔を歪めた。
それに気付いた玄鳥は大して意味はないと知りながら、手荷物を背中に隠す。
「……ケーキの匂い、キツイですか? 有砂さんのコーヒーも買ってありますから」
「……吐き気がしそうやな」
蝉は苦笑して頭を振る。
「マジで極端だよね。うちのリズム隊。お菓子しか食べないのと、お菓子が食べれないのと……さ」
最初のコメントを投稿しよう!