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《第1章 人魚の足跡 -missing-【5】》
火を止めた。
温め直した鍋から、ごく少量をすくって、小さな皿に移す。
皿を唇に寄せて、軽く息を吹きかけたあとで口をつけた。
作ったばかりの時より熟成されて旨味の増したカレーを神妙な面持ちで味わった万楼は、皿をガステーブルの縁に置いて、おもむろに額に手を押し当てた。
「……やっぱり、知ってる……」
きつく目を閉じる。
見えないものを求めるように。
「……ボク……これと似たの……食べたことある……」
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