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日向子は無言のまま、メットごと頭を上下した。
「今回のことで万楼については多少ふっきれたカンジなのかもだケド、でも、紅朱はこれからもきっと、粋を想い続ける……だから」
「日向子ちゃんは、紅朱を好きになっちゃダメだよ」
「じゃあな、お疲れ」
一晩中作詞に集中していた紅朱は流石に眠そうに見えた。
「あんまり無理しないでね。リーダー一人の身体じゃないんだから!」
「……キショいっつーの」
大して迫力のない睨みを残して紅朱は、スタジオを出て行った。
万楼はそれを目で追った後、ふーっと息を吐いた。
「……蝉とお姉さんはどうしたかな」
「……どう、もしないだろ……別に」
玄鳥が恐ろしいまでのローテンションで手荷物をまとめながら呟く。
「家まで送るだけ……家まで送るだけ……」
「……家まで送ってもらったら『お礼に中でお茶でもいかがですか?』ぐらいは言いそうやけどな」
「うっ」
「……お疲れさん」
相変わらず淡々と言いたいことだけ言ったきり、有砂も年少二人を残して去って行った。
玄鳥は、十分想像できるその展開に戦々恐々としていたが、万楼は平然と微笑すら浮かべる。
「大丈夫だと思うな、蝉ってそういうところ真面目だし」
「……確かに。有砂さんの車に連れこまれるよりは遥かに安全かもな」
「……次、有砂なんだよね。個人取材」
「……心配だ」
頭を抱えてぼやく玄鳥。
万楼も頷く。
「きっと驚くだろうな。想像してるよりずっと手強い相手だから」
「日向子さんをあんまり困らせないといいけどな」
「え? 違うよ。何言ってるの? 玄鳥」
「え?」
「ボクは有砂のほうを言ったんだ」
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