《第2章 悪夢が眠るまで -solitude-》【1】

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「……っ」 「あ、起きた」 「……」 「大丈夫?」 「……」 「よちよち、また怖い夢見たんでちゅね~」 「……」 「……」 「……」 「……コーヒーいる?」  虚ろな瞳のまま有砂が頷くと、蝉は「待ってて」とキッチンに走って行った。  有砂はベッドの上で横になったまま、身体を丸めて、混濁した意識をかき混ぜて、なだめて、沈める作業を続ける。  そこには苦痛と不快感しかない。  汗でべったりと貼り付く髪の感触も、一向におさまらない動悸も、整わない呼吸も、身体の奥から響くような疼痛も、目の前をちらつく「悪夢」の残像も。 「はい、お待ち」  蝉がコーヒーカップを持って舞い戻ってきた時には、作業は一通り終了し、受け取ったコーヒーを飲んで、 「……薄い」 「薄く作ったの!! ホントはコーヒーなんか飲ませられる状態じゃないんだから」 「……うっさい」  極めてセンテンスは短いが、いつもの悪態をつく余裕が生まれていた。  蝉はオレンジのウイッグを外して、真っ黒な短髪の「オフ」モード。  二人がシェアしているこの部屋ではこの状態が常だった。 「……ってかよっちん、マジで大丈夫?」 「……何が?」「カラダ痛くない?」 「……痛い……けど」 「ひょっとして何があったかサッパリ覚えてない系?」 「……全然」  蝉はベッドサイドに頬杖をついて、溜め息をもらした。 「よっちん、借り作ったよ……うちのお嬢様に」 「……借り?」 「今日の練習終わりなんだケドね……」
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