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「……っ」
「あ、起きた」
「……」
「大丈夫?」
「……」
「よちよち、また怖い夢見たんでちゅね~」
「……」
「……」
「……」
「……コーヒーいる?」
虚ろな瞳のまま有砂が頷くと、蝉は「待ってて」とキッチンに走って行った。
有砂はベッドの上で横になったまま、身体を丸めて、混濁した意識をかき混ぜて、なだめて、沈める作業を続ける。
そこには苦痛と不快感しかない。
汗でべったりと貼り付く髪の感触も、一向におさまらない動悸も、整わない呼吸も、身体の奥から響くような疼痛も、目の前をちらつく「悪夢」の残像も。
「はい、お待ち」
蝉がコーヒーカップを持って舞い戻ってきた時には、作業は一通り終了し、受け取ったコーヒーを飲んで、
「……薄い」
「薄く作ったの!! ホントはコーヒーなんか飲ませられる状態じゃないんだから」
「……うっさい」
極めてセンテンスは短いが、いつもの悪態をつく余裕が生まれていた。
蝉はオレンジのウイッグを外して、真っ黒な短髪の「オフ」モード。
二人がシェアしているこの部屋ではこの状態が常だった。
「……ってかよっちん、マジで大丈夫?」
「……何が?」「カラダ痛くない?」
「……痛い……けど」
「ひょっとして何があったかサッパリ覚えてない系?」
「……全然」
蝉はベッドサイドに頬杖をついて、溜め息をもらした。
「よっちん、借り作ったよ……うちのお嬢様に」
「……借り?」
「今日の練習終わりなんだケドね……」
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