《第2章 悪夢が眠るまで -solitude-》【1】

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 有砂は味気無い味わいのコーヒーをちびちび飲みながら黙って蝉の話を聞いていたが、 「……それは難儀やな」  いつもの口癖をぽつんと呟いた。 「そこはありがとう、でしょ!! まったくもう……」  蝉はがしがしと自分の頭をかきむしる。 「だいたい武闘派じゃないクセにさ、なんで毎度毎度似たような喧嘩買うかなぁ。 おれ的には、わざと相手を挑発すんのもどうかと思うんだケド!?」 「……早くかかってきてくれたほうが早く終わるから助かる」 「……なんかもう、よっちんがまだ五体満足で生きてられるのが不思議でしょーがないんだケド……」  有砂は空になったカップを押し付けるように蝉に差し出した。 「……オレもそう思う」  一方その頃、日向子は玄鳥の車のサイドシートに座っていた。 「……実はああいうこと、初めてじゃないんですよ」 「そう……なのですか?」 「有砂はトラブルメーカーだからね」  後部座席に寝転がった万楼も口を開く。 「打たれ慣れてるから心配しなくていいよ」  三人はあの騒動の後、一息つくべくファミレスでしばらく過ごし、今は日向子を部屋まで送るところだった。 「……しなくていい、と言われましても……心配ですわ」 「いいんです、自業自得なんだから」  珍しくはっきりと切り捨てるような発言をする玄鳥に日向子は少し驚いていた。 「……玄鳥様……怒っていらっしゃいますの?」 「怒ってますよ。俺ははっきり言ってあの人のそういうところ、大嫌いですから」  ハンドルを握る玄鳥の横顔は険しく、どこか紅朱と被って見えた。 「……女性といい加減な付き合いばかりするからこうなるんですよ」 「……いい加減な、お付き合い……?」 「あ、えっと……詳しくは知らないほうがいいかもしれないです……」  言葉に窮する玄鳥を、万楼は遠慮なく笑った。 「お姉さんや玄鳥には刺激が強すぎるよね」 「未成年に言われたくないよ」  玄鳥は苦笑いで答える。ようやく怒りが薄れてきたのか、いつもの表情に戻りつつあった。 「……でも日向子さんがとっさに俺を頼ってくれて嬉しかったですよ」
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