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「はい……玄鳥様にはわたくしも以前ひったくりの方を捕まえてバッグを取り返して頂きましたし……」
「玄鳥は空手黒帯だからね」
「まあ……」
「兄貴もちょっとやってたんですよ。それで俺も始めたのに、兄貴はすぐ辞めちゃって」
「そうですの……紅朱様が」
日向子は紅朱の名前が出たところで気になっていたことを尋ねた。
「ところで紅朱様は、今日どうしてすぐ帰ってしまわれたのですか?」
「ああ、バイトですよ」
「バイト……アルバイトをなさってるのですか?」
「そりゃまあ……俺たちアマチュアなんで。流石にバイトしないと食ってけないんですよ。
俺も楽器屋でバイトしてるし……」
「ボクはコンビニ!」
「兄貴は警備のバイトなんで、だいたいは夜勤ですね。蝉さんは……何て名前だったかな、児童福祉施設の手伝いをしてるらしいです」
「児童福祉施設?」
「蝉さんは小さい時にご家族を亡くしてて、その施設で育ったそうで」
「まあ、そうでしたの……」
次々明かされるメンバーの新たな一面と秘密にしきりに頷く日向子。
玄鳥はそれをちらっと横目で見て、少し口調を転じて言った。
「この前……蝉さんに送ってもらったんですよね。……あの……何か変わったことは」
「はい?」
「いや、なんでもないです。すいません、詮索するようなこと聞いて……」
日向子は先日、生まれて初めてバイクというものに乗ったあの時のことを思い出した。
その前に交した、蝉との会話も。
「……蝉様は、とても親切で、よく気のつく良い方ですわね」
「えっ……あ、まあ……そうですね……確かに」
自分で話を振って、力いっぱい後悔した玄鳥だったが、内心の動揺を必死に抑え込みつつ、
「あの有砂さんのフォローが出来るのなんて蝉さんくらいですからね」
とりあえず話を合わせておく。
もちろん日向子にはそんな複雑な男心などわかる筈もなかったが。
「そういえば有砂様はどんなアルバイトを?」
「ああ、有砂さんは……」
「あら、少しお待ちを……電話が」
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