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「はい……モードゴシック系の」
「主人の沢城秀人(サワシロ・ヒデヒト)はそのオーナー兼デザイナーなのよ。妻のわたしはヘアスタイリスト、そして息子の佳人くんは……専属契約のモデルをやってるというわけ」
薔子とともに、スタジオの隅に用意された簡易タイプのテーブルについて、お茶とお菓子を振る舞われながら、日向子は未知の光景を目にしていた。
heliodorとしてステージに上がる時とはまた一風異なるメイクを施され、黒を基調としたゴシック系のスーツをまとった有砂が、カメラマンに様々な要求をされながら次々とシャッターを切られている。
「有砂様はモデルのお仕事をされていましたのね……」
「佳人くんはブランドイメージにぴったりなのよ……背徳と頽廃、静寂と虚無……そして、官能」
薔子はとても楽しそうに有砂を見つめる。
「実のお母様がモデルをやってらしただけあって、センスもいいしね」
「あの、ぶしつけなことをお聞き致しますけれど……有砂様の本当のお母様はお亡くなりに……?」
「ううん……ご健在ではいらっしゃるみたい。一応ね」
含みのある言い方が気になったが、なんとなくそれ以上突っ込んだ質問をしづらい雰囲気だった。
「……それにしても、有砂様がモデルのお仕事をなさっているなんて意外でした」
「……そうね。わたしは佳人くんが高校生の頃からずっと口説いてたのに、長いことつっぱねられてきたもの。
それが、3年くらい前かしら。いきなり向こうから『やってもいい』なんて言ってきたのは」
「3年前……3年前は……」
粋がheliodorを脱退して、バンド活動が休止した頃。
彼らにとって、もっとも深い暗黒の時代。
「思った通り、あの子はモデル向きだったわ。音楽活動なんてやめて、いっそ本格的に転向すべきなのに」
「それはご無理なのでは……有砂様には大切なバンドがありますもの」
「……大切な、バンドですって?」
「はい」
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