《第2章 悪夢が眠るまで -solitude-》【2】

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「女王様の、お心のままに……」  その時、日向子の手の中で薔子の携帯が振動をし始した。 「大変……また着信が。やっぱりお届けしないと」 「だからダメだって。まったく……」  若い撮影スタッフは、呆れた顔で隣室のドアに手をかけて、音を立てないようにそっと、1センチほどの隙間を開けた。 「……覗いてみればわかるよ」 「まあ、覗き見だなんて……よくないですわ」 「いいから」  強く促されて、日向子はためらいながらもそっと、隙間から部屋の中を覗いた。  あまり広くはないその部屋にはメイク台や大きい鏡などがあって、どうやら控室のようなところらしかった。  日向子は二人の姿を探して視界を旋回させ、そして、止まった。  日向子の瞳は大きく揺らぎ、見開かれたまま停止する。  メイク台に腰を下ろした薔子は、楽しそうに笑っていた。  リングをはめた左手で有砂の身体を引き寄せて、右手でそのスーツのシャツのボタンを1つずつ外して。 「……また怪我が増えたのね。いけない子……売り物に傷をつけたりして」 「……もともと、傷モノなんで」 「……ふふふ」  ボタンを全て外し終えた右手が有砂の顎のラインを撫でて、肩口を掴み、そして、引き寄せた。  唇が、重なる……。  日向子はそこで、ドアに背中を向けた。 「わかったかい? ……そういうことだから、遠慮してね」  若い撮影スタッフは苦笑いして見せる。 「……血縁はないし、母子って言うには年も近すぎるとはいえ……ねえ。女王様にも困ったもんだよ。 ……ああ、この件は一応内密にね」  そう言い残して急いで作業に戻っていった。  日向子の手の中で、うるさく騒いでいた携帯がついに沈黙した。  日向子も沈黙したまま、うつむいていた。  有砂が義理の母親と、深い仲であるらしいという事実もかなり衝撃的だったが、それよりも胸が痛いのは、今、薔子の言葉に反論できなくなりつつある自分に対してだった。  有砂には大切なものが、ない。  自分自身ですら大切では、ない。 「本当に……そうなのですか? 有砂様……」
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