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「有砂ちゃんさ、虐待されてたんだよ……離婚がきっかけで、お母さんの心は限界だったんだね……。
そして有砂ちゃんの幼い心も限界だった。
どうして自分だけこんな目に遭うのか、どうして母親に引き取られたのは自分だったのか……そんな気持ちだったのかなって思う」
不遇な運命は、まだ小さな少女の心を狂わせてしまったのか。
慕っていた筈の兄に、憎悪の刃を向けてしまうほどに。
「お母さんは強制入院、有砂ちゃんもどっかの施設に送られて、それっきりだよ。
当時は結構センセーショナルな事件で、世間も騒ぎまくってさ……よっちんがマスコミ嫌いなのは多分そのせいだと思うよ」
「そのようなことが……」
日向子は誰を責めたら良いのかすらもわからない、不幸としか言いようのない過去に、深い悲しみを感じずにはいられなかった。
「……けれど蝉様、そのことは有砂様が自ら蝉様に話されたのですか? ……わたくしが考えるに」
「あいつは人にそんな話をしたがらないんじゃないかって? ……いいとこに気付いたじゃん。
これはさ、よっちんが不覚にもおれに借りを作った時に、その返済のために話してくれたんだよね~」
「借り……ですか」
「うん……それがまた、ある意味ちょっとエグい話なんだケドね~……」
蝉はなんだか意味深な苦笑を浮かべた。
「施設にいた時なんだけどさ、おれとよっちんはたまたま部屋が一緒で、布団並べて寝てたのよ。
そしたらあいつ、夜中に人の布団に入って来てさ、抱きついてくんの! マジで!!」
「まあ……」
「毎晩毎晩、無意識にだよ。多分、妹をだっこして寝るのがクセんなってたんだろうね。
おれ的にはたまったもんじやなかったんだケド、振りほどくとあいつ、必ずうなされるしさぁ……なんか可哀想じゃん?
結局施設にいる間、おれはずっとよっちんの抱き枕だったってワケ!」
笑っては申し訳ないと思いながら、日向子は思わず少しだけ笑みをこぼした。
「……なんだか、可愛いです……お二人とも」
「そ……可愛いもんでしょ。もうずっと昔の話だけどね。でもよっちんはさ、多分あの頃と変わってないんだよね。
独りで寝るのが辛いから、誰でもいいから一緒に寝てほしいんじゃないのかなって思う」
「あ……」
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