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「それにさ、よっちんって実は人一倍庇護欲が強くて、誰かを守りたいとか、大切にしたいとか思ってるのに、その対象がなくなっちゃって、自分でもどうしていいんだかわかんなくなっちゃってる気がする。
その証拠に玄鳥や万楼には遠回しにアドバイスしてやったり、なんだかんだ心配してんのわかるし」
有砂には大切なものが、ない。
再び噛み締めたそれは、日向子の中に昼間感じたのとは違う感情を呼び起こしていた。
「……わたくしは愚かで、浅はかでした。有砂様のお気持ちを思いやることができませんでした……。
何も知らないのに、理解しているようなつもりでいたから、裏切られたような気がしてしまったのだわ……」
「何言っちゃってんの、そんなヘビーに取らないで」
蝉は今までの重い空気を払拭するように明るい笑顔で日向子を見た。
「人の気持ちなんて、本人にだってよくわかんなかったりするんだし、しょーがないってカンジ。
おれが話したこともほとんど推測入ってるしさ。
けどおれ、こんなんでも一応自称よっちんの親友だからね」
ぽん、と得意気に胸を張る。
「全っ然了承はされてないケド、そう思うのはおれの勝手だし!
ほっとけないんだもん。仕方なくない?」
「……そうですわ……」
リアルな夢の中で、伯爵が言っていたことが頭をよぎる。
――どうすればいいかわからない……
では私が『こうしなさい』と言ったら
そうするのかな? レディは
――……今『そんなの嫌だ』と思ったね?
それが……全てだよ
「どうすればいいか、より、どうしたいか……。わたくし自身がどう思うかですのね……」
「……お嬢様、ご気分はいかがですか?」
「心配かけてごめんなさい……わたくし、少し元気が出ました」
蝉と入れ替わりで帰ってきた雪乃を出迎えて、日向子は微笑んだ。
「……それは何よりです」
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