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《第2章 悪夢が眠るまで -solitude-》【4】
「……またやっちゃった……おれ何やってんだろ……」
眼鏡を外した蝉は、クラクションを避けながらハンドルの上に突っ伏した。
「ある意味チャンスだったんだよなぁ……」
放っておけば日向子は挫折したかもしれない。
有砂の取材をあきらめて、heliodorの企画をあきらめて、日向子が引けば。
日向子とメンバーの誰かがどうにかなってしまわないかという心配も、けしてバラしてはいけないと、日向子の父親から厳重に注意されている「二重生活」が発覚する心配も減る。
日向子があきらめてくれれば、蝉は今よりずっと楽になれたのだ。
だが結局、蝉は日向子に助け舟を出してしまった。
その訳は、有砂に対する自称親友としての情愛。
それと……。
スーツの胸を濡らした、温かい雫。
「……あの涙はちょぉっと卑怯なんじゃない……? ……お嬢様……」
自嘲の笑みが唇を歪める。
「……さて、今夜は誰に泊めてもらおっかな……」
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