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仰向けの姿勢で、手首を頭の横で押さえ付けられた日向子は、闇に浮かび上がる有砂の冷たい眼差しを見上げていた。
「……忠告はした筈や。そんな調子でおったら、怖い目に遭うってな」
日向子の身体はそのままバラバラになってしまうのではないかというほど、小刻みに震えていた。
頭の中が真っ白になって、心臓が破裂しそうに鼓動する。
有砂は口の端を吊り上げる。
「ようやっと大人しなったか……? お嬢」
「……」
「……もう、諦めや」
日向子ははっとした。
「……あきらめ……」
少し視線を動かして、戒められた自分の左手首を見やった。
月を模したシルバーの輝きがそこにある。
夢の中の光景が、あの穏やかな甘い声が、そして優しい旋律が日向子の中に蘇る。
その瞬間、身体の震えは止まっていた。
「あきらめるわけ、ないです……」
渇いた喉から声を絞り出した。
「だってわたくし……怖くありませんから」
「なんや、て?」
いぶかしげに眉根を寄せる有砂を、日向子はもう一度真っ直ぐ見つめた。
恐怖に脅えた眼差しなどではなく、強い意志を湛えた瞳で。
「お友達を抱き枕にしなければ眠れないような甘えん坊さんなんて、わたくしはちっとも怖くなんかありません」
「っ……な」
有砂の顔に明らかに動揺が走った。
思わず緩んだ戒めから手首をすり抜けさせ、日向子は自由になった右手を大きく振りかざす。
パン、と小気味良い音を立て、日向子の右手が有砂の左頬を、打った。
「つっ……」
打たれた頬を押さえて、有砂は覆い被さっていた身体を日向子から離した。
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