198人が本棚に入れています
本棚に追加
そして、何故かそっと伏している有砂の、まだ半乾きの髪を、撫でた。
「……何しとん」
「いえ、なんとなく」
「……意味わからん。なんや、眠気がくる……」
「では、おやすみ下さい」
「……なあ」
「はい」
「……蝉からどこまで聞いた?」
「……」
「……まあ、ええわ。あの件をバラしよったゆーだけで十分や……あいつ、極刑やな……」
表情の読めない姿勢で、なかなか不穏当なことを口走る有砂に、蝉のこれからを少し心配しながら、日向子もようやく一息ついた。
安堵した途端、思わずこみ上げてきた欠伸を押さえきれず、日向子は、目をこすった……。
「あ……あ……あぁぁぁぁっ!!!」
まるで断末魔のような恐ろしい悲鳴という、効果覿面な目覚ましアラームで、日向子はぱちっと目を開けた。
「……あら? わたくし、いつの間に」
ゆっくりベッドから身体を起こすと、寝室の入り口に見知った顔を見つけた。
「まあ……蝉様、おはようございます……」
「お……お……おはよう、じゃないからっ!!」
「はい?」
「何この状況!?」
蝉はしゃがみこんでオレンジの頭を抱え込み、ふるふる震える。
「なんでよっちんのベッドで二人で寝てんの!? ……しかもよっちんってば半裸だしぃ!?
……うそだぁぁぁ……」
「あの蝉様、まだ有砂様、眠っていらっしゃいますので。お静かに」
常識然とした日向子の注意に、蝉はぴたっと黙った。
それから小声に改めて再び口を開いた。
「こんな騒いでも起きないか……眠りの浅いよっちんには珍しいかも」
二人は、ベッドに横向きに身体を投げ出して、無防備な寝顔を晒している有砂を覗き込んだ。
規則正しい寝息から、有砂が安らかな眠りの中にあることは明らかだった。
「……日向子ちゃんの隣だと安心できんのかな」
「え……?」
「……そ、それともそんなに疲れて、ぐっすり寝ちゃうほどすごいことしちゃったの? キミたち」
再びふるふる震える蝉を不思議そうに見つめながら、若干寝惚けた口調で日向子は言った。
「ちょっと痛かったし、ちょっと怖かったですけど……やっぱり有砂様は優しかったです」
そうして、近所迷惑な悲鳴が再び辺りに響き渡ったのだった。
《つづく》
最初のコメントを投稿しよう!