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有砂の指摘は的確なものだったが、日向子には驚くほど自覚がなかった。
「まあ……オレは別にかまへんけどな。そういう発言を一々真に受けて舞い上がるアホもおるから、気ぃつけや」
日向子は相変わらず要領を得ないようなぽやんとした顔をしていたが、
「……でもわたくし、本当に有砂様は素敵だと思いますわ。
お背が高くていらっしゃって、スタイルがおよろしいから何を着てもお似合いですもの。
雰囲気も大人っぽくて落ち着いていらっしゃるし、話し方も静かで知的な感じが致しますわ。
それにステージでドラムを叩いていらっしゃる時など、本当に……」
「あーっ、だからそれをやめ、ゆーてるんやろ!」
「でもわたくしは……」
有砂が手の甲でダン、とウインドウを叩くと、日向子は流石にびっくりして止まった。
「……では、自粛致しますわ……」
隣で目をぱちぱちさせる日向子の耳に届かないような小声、有砂は、溜め息まじりで呟いた。
「……舞い上がらす気ぃか。アホ」
「そっかそっか、じゃあ原稿はなんとか間に合いそうなんだね」
「はい、蝉様へのインタビューは次回に持ち越しになってしまいそうですけれど」
いつものカフェから、編集部オフィスまでの帰り道、日向子は美々にここまでの取材の報告をしていた。
「いいんじゃない? リズム隊好きのドーリィは熱狂的なの多いし」
「どーりぃ? とはなんですの?」
日向子の知らない単語だった。
「heliodorのファンは自分たちのことをそう呼ぶんだよ。別にメンバーが認定したわけじゃないけど定着してるみたい」
「そうでしたの。美々お姉さまは本当に、heliodorのことをよくご存じですのね??」
「んー……別にそういうわけでもないんだけどね。実はライブだって行ったことないし」
「まあ、では今度のライブには是非ご一緒致しましょう!?」
「え~? いいよ、あたしは。最近またかなり忙しいしさ」
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